2020年1月からのコロナの影響を受け、私たちの聞き取り調査は大幅な遅延を余儀なくされていましたが、皆様からの温かいご支援とご声援を受け、地道に活動を継続しております。活動にご支援、ご協力いただいている皆様に活動報告をお送りいたします。

コロナが少し鎮静した2021年8月~9月には韓国での集中調査を実施し、約20名の脱北帰国者にインタビューしました。その後も日本国内にて対面とオンラインによる聞き取り調査を、感染症対策に留意しつつ行なって参りました。今年の春に、目標としていた50名の聞き取り調査をいったん終え、補足、追加のインタビューと、写真や手紙などの収集と整理を行なっております。

2022年7月の韓国での活動報告会の様子
2022年7月の韓国での活動報告会の様子

 

〇2021年下半期―2022年上半期 活動のご報告

2021年
・8月〜9月 調査員2名が渡韓し、韓国在住の元日帰国者への集中インタビューを実施。
・10月   社団法人の総会開催。
・11月   国内在住の帰国者をお招きし、追加インタビュー及びワークショップを実施。

2022年
・5月   国内在住の帰国者の方をお招きし、追加インタビュー及びワークショップ(第2回)を実施
・6月5日 大阪にてイベント「北朝鮮に帰った在日を記録する意味」開催。
・6月   社団法人の総会開催。
・7月   韓国にてイベント「在日同胞の北朝鮮帰国者の記憶を記録する意味」開催。
・10月  韓国にて追加のインタビューを集中実施
・11月  出版社への記録集の企画が通過。
・12月  手紙や写真などの資料整理と編集作業

 

〇これまでの聞き取り調査・概要

2017年より開始し、2022年春までに実施した脱北帰国者への聞き取りは、目標の50人に達した。以下は、その概要である。1人当たり平均8時間のロングインタビューを完全文字起こししている。

●50名 聞き取りの内訳
大阪12人、東京11人、韓国27人の計50人
(50人はすべて日本生まれで、北朝鮮出生の2、3世は含まない。日本人妻は4人)


1930年代生まれ4人、1940年代生まれ25人、1950年代生まれ17人 (脱北帰国者一世の多数)、1960年代生まれ4人
(1920年代生まれの日本人妻に面会したがインタビューは謝絶さる)

最年長は1937年生まれ。最年少は1968年生まれで、8歳で1976年に帰国。

●日本の出身地(多い順番)

●北朝鮮での配置先

咸鏡北道21名、両江道6名、咸鏡南道5名、平安北道2名、平安南道4名、黄海南道2名、黄海北道4名、平壌2名、江原道3名、滋江道1名
※帰国時の配置先の多少を意味しない。脱出しやすい中国に近い北部の人が多い。

●出会えなかったケース

60年代中盤以降に多かった「技術者集団」
朝鮮大学卒業生
日本人夫
大村収容所出身者
※刑務所収監中に横浜入管から強制送還の形で72年に帰国船に乗った人がいた。

 

〇2022年6月5日大阪開催イベント

コロナ対策のため入場予約制を採りましたが65名の方にご来場いただきました。石丸次郎事務局長の活動報告の後、講演と映像上映。

① 講演「9万3千人が海を渡った帰国事業を今、考える」髙栁俊男法政大学教授

「帰国事業」を考える過去、そして現代的な意義と課題について、高柳さん自身のこれまでの研究活動、在日朝鮮人史研究者らとの交流や共同作業についても踏まえながら言及された。この大量帰国の背景には、当時の在日朝鮮人の将来の展望の無さや、日本社会の閉鎖性、日本政府からすれば政治的・経済的に日本に不利益をもたらすと目された人々がいなくなることに利益を見出していたなど様々な背景要因があり、決して二分的思考に陥るのではなく、双方向の視点で、複雑な歴史を「複雑なままに捉える」ことが大事であることを強調された。

現代的な課題としては、去る2022年3月に判決が出された「帰国者裁判」での高柳さん自身のかかわりについてお話くださった。この裁判は帰国当事者の5名が北朝鮮政府を相手取り損害賠償を求めたもので、高柳さんは川崎栄子さんや訴えた人たちの無念の思いに寄り添いたい、人々の記憶から消えつつある北朝鮮帰国事業に光を当てる契機に、という思いで「一専門家としての証言」という役割に徹された。

また最近の「ポドナム通りリニューアル」の活動についても紹介された。「ポドナム通り」とは北朝鮮への帰国船が出航した新潟港に通ずる道路沿いに、在日朝鮮人らが柳の木を記念植樹したものだ。それから60年以上が経ち枯れてしまった木も多く、当初の3分の1以下になってしまっているそうだ。それを市民の手で補植することで、帰国事業への関心を喚起し、新潟を自由と人権の象徴の地にしようというテーマで行われている。

このボトナム通りを通って帰国していく人々で最も新潟港が盛り上がっていた頃、よく歌われたのが「建設」という歌だった。1番から3番まで「豊かな朝鮮、自由な朝鮮」とリフレインされるこの歌は、シベリア抑留中にある日本人が「社会主義国はそうであるに違いない」と思い作った歌だと言う。「主義思想による思い込みを乗り超え、自分の目で見て、考えていく。事実に基づいて捉えていくことが必要で、冷静かつ客観的、あるいは多面的、双方向的に粘り強く考えていく態度がとりわけ朝鮮問題には求められていくと思います」と高柳さんは強く述べられた。

②記録映像「帰還船1959-第一船」上映  解説 康浩郎さ(映像作家)

在日の映像作家・康浩郎さん(1938年大阪生まれ)が、日大芸術学部在学中に帰国第一船の出港までの様子を、品川駅・日赤帰還列車発車時、新潟日赤センター内の帰国者と家族(帰国意志確認室)、ソ連のトボリスク号の離岸の様子など撮影した作品。鑑賞後は、会場から「映像資料に残す大切さを感じた」といった感想や、帰国者の方からは「二段ベッドが懐かしかった」「知り合いはいないかつい探してしまった」といったコメントを頂いた。

③トークセッション 康浩郎さん×髙栁俊男さん×石丸次郎

康さん・高柳さん・石丸によるトークセッションでは、高柳さんからは康さんへ今後の映像補修の展望についての質問と、「帰国意思確認」のシーンについて補足解説がなされた。日赤としてはかなり厳密な意思確認をしたかったものの、それに対して総連が反発し、その段階で日赤が調整したことで、映像内にある意思確認の様子に至った点について、会場内で確認した。

康さん自身は常に組織活動や思想への違和感を抱えて、当時総連内での映画作りのプロセスにも失望していたことや、映画製作の前史として小松川事件との関わりの中で自身のアート性を見出されたご経験、そして帰還船の撮影は継続出来なかったものの、「帰国者のその後」に常に関心を持ち続けていたことなどを言及された。

「政治的な関心ごと、流れで物事を考える前に、我われ在日の心の底にある何かと触れ合うところで<アート>だろうと。そこから在日が育っていくし変わっていく、成長していく。その中で、私は映画を作るしかないと感じていました」と発言された。

 

〇2022年7月18日韓国開催イベント

合田創理事長はじめ「記録する会」のメンバー7名で渡韓。ソウルの光化門に位置する「統一と分かち合い」ブックカフェにて4年にわたる活動報告会を開催しました。小さな会場であったため広く告知はできなかったものの、報道関係、人権関連NGO、研究者や学生ら約45名が来場されました。

総会報告

2022年6月5日大阪において社団法人「記録する会」の総会を開催しました。これまでの活動を理事、社員に報告し、人事と2年間の決算について以下のように承認を受けました。

①役員人事

2020年度 当会の役員選出について。任期は2024年6月4日まで。
代表理事  合田創
理  事  文世一、宋在伍、洪敬義
監  事  林範夫
事務局長 石丸次郎
事  務 局 パク・ジョンナム(総務韓国担当)、前田達朗

②2020年3/1~2022年4月30日の収支報告(約2年間分)

●収入
助成金    1137万4722円
寄付       124万4131円
借入金      50万円
雑収入     92万9998円
計       1311万8853円

●支出
1.旅費    49万5544円
2.宿泊費    43万4590円
3.集会会議費     11万3293円
4.聞き取り取材費  240万9105円
5.通信費       7万4652円
6.印刷費            260円
7.業務委託費      516万4265円
8.備品消耗品費        8681円
9.新聞図書費                9178円
10.公租公課     1万3430円
11.雑費         5万3807円
12.予備費(借入金返済)  50万円

支出計     927万6805円
次期繰越金    477万2046円

※ 助成金収入とは、2年間で韓国の「統一と分かち合い」財団から1003万9334円と、韓国の「アジア研究基金」から133万5388から得られたものです。
※業務委託費の大部分は日本語韓国語混じりのインタビュー音声約360時間分の文字起こし費用です。

③2022年度5月1日~2023年4月30日 収支計画案(予算)

●収入
前期繰越  477万2046円
寄付金   80万円
合計    557万2046円

●支出
インタビュー取材費   40万円
音声起こし    100万円
国内旅費・交通費   30万円
韓国でのセミナー    60万円
講師謝礼       10万円
会場費         5万円
事務費        25万円
雑費   5万円
編集人件費    282万2046円
合計      557万2046円

 

今後の活動について

私たちは現在、書籍化に向けて文字起こしした作業記録の整理と執筆編集に取り掛かっております。また、提供を受けた膨大な写真、手紙、録音テープ等も含めた、データベース化の作業にも着手して参ります。

記録発表については、ウェブページでの公開を先行させ、書籍の編集作業を同時に進行させる予定です。11月にある大手出版社への企画提案が通過いたしました。

今後の資料整理、データベース化、編集作業にかなりの資金不足が予想されます。なにとぞ、引き続きのご関心、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
※下記ページに、振り込み、カード決済、送金など、ご支援の方法について記しております。

 

2022年11月2日
北朝鮮帰国者の記憶を記録する会 事務局

ご家庭に眠る写真や映像資料の提供にご協力ください

私ども「北朝鮮帰国者の記憶を記録する会」では、皆様がお持ちの帰国事業にまつわる写真や、8mmフィルムといった映像資料等、後世に伝える資料として保存するためにご提供をお願いしております。

北朝鮮に渡航する前の生活や帰国船を待つ様子、「祖国訪問」の時の思い出など、ご家族やご親戚の写真をお持ちでしたら、ぜひご協力ください。
(2020年9月14日)

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