梅雨前線が朝鮮半島と日本を行ったり来たりしていた7月中旬、晴れたり土砂降り雨になったりと不安定な天気が続く中、合田創理事長はじめ「記録する会」のメンバー7名がソウルに行ってまいりました。
7月18日(月)、ソウルの中心地・光化門に位置する「統一と分かち合い」ブックカフェにて、私たち「記録する会」の4年にわたる活動報告会を開催しました。こじんまりした会場であったため広く告知はできなかったものの、報道関係、人権関連NGO、研究者や学生ら約45名が来場されました。以下、イベントの報告です。
「在日同胞 北朝鮮帰国者の記憶を記録する意味」
はじめに合田理事長より、日本人と在日コリアンが共同・協働で担ってきた事業であることを強調しつつ、開会の辞を次のように述べた。
「帰国事業で北朝鮮に渡られた多くの人びとの歴史記録は、まだページに空白の部分が多い。この人びとの記憶を確かに記録する。辛く悲しい記憶についても思い出していただき、ひたすら記録することが我われの役割だ。コロナにより中断を余儀なくされる時期があったが、50名の方にロングインタビューすることができた。本日はその到達点についてご報告したい」
第1部 調査の意義と概要について
続いて、石丸次郎事務局長による活動報告では、「なぜ日本から北朝鮮に帰国した人びとの記憶を記録しなければならないのか」と活動を始めた理由を説明し、記録する意味と意義について述べた。
「当時のニュース映像や新聞報道、記録写真を見ると、新潟港から北朝鮮に向かう船に乗った人たちのほとんどは嬉々とした表情をしており、見送る人たちは別れを惜しみつつも、在日朝鮮人が祖国に帰ることを喜ばしい『慶事』として歓送している。しかし、船に乗り込んでいった一人一人が、北朝鮮に帰った後にどのような人生を送ったのか、また北朝鮮社会でどのような処遇を受けたのか。日本人家族を合わせて9万3000人以上の、民族大移動だと言えるほど多くの人びとが北朝鮮に渡ったにもかかわらず、その後の人生はほとんどが明らかになっていない。脱北して日本と韓国に住む帰国者は高齢だ。北朝鮮での生き様に光を当てられる時間はあまり残されていない」
また石丸事務局長は、「当会の事業はあくまで帰国者たちの生の記録を残すことに特化した活動であり、人権運動や民主化運動、政治活動とは一線を置くことを原則としている」と強調した。
調査概要の説明
続いて、これまでの聞き取り調査の概要について説明した。調査対象の脱北帰国者50名の日本の出身地、年齢、帰国年度、北朝鮮での配置先等の概要について説明した(6/5の大阪イベントの報告のページを参照)。
我われの調査の方法と限界についても以下のように報告した。
・北朝鮮生まれの「帰国者二世」の調査は実施しなかった。
・日本生まれで帰国当時の記憶がある高齢の方を優先させた。
・脱北者には中国への脱出のチャンスが高かった北部地域に居住者していた人が多いが、配置と居住先の多様性を重視して、南部地域に居住していた人を意識的に選択した。
・日本の朝鮮大学校出身者、技術者集団、日本人男性(主に夫として帰国)、大村収容所出身にはまだ会えていない。
写真で見るある在日一家の歴史
我われは、脱北帰国者への直接インタビューに加えて手紙や写真、音声などの資料も収集している。西日本のある在日家族より提供を受けた、植民地時代から帰国直前、帰国後の北朝鮮での暮らしまでが分かる家族写真を、会場で時系列で紹介した。来場者が食い入るように見ていたのが印象的だった。
第2部 脱北帰国者の証言
日本から北朝鮮に渡り、その後脱北して韓国に居住している3人にご登壇いただき、北朝鮮での体験について聞いた。また、在日韓国人で、現在は韓国に居住する朴香樹(パク・ヒャンス)さんからは、北朝鮮に帰国した叔父に関する辛い体験を聞いた。朴さんは叔父に会いに二度北朝鮮に渡航したが、その後本人と家族の行方が分からくなり、後に収容所送りになっていたことが判明したと、写真資料を見せながら話してくださった。元在日帰国者の北朝鮮体験と、親族が政治犯として収監されたという証言は、来場者に強い印象を残したようであった。
来場者のコメント
来場者からのコメント、質問を紹介しておきたい。
「多くの写真資料を見せながらの報告だったので、歴史事実を現実のものとして実感することができた。韓国社会でもこのことを知らせなければならないと強く感じた」
「韓国人にとっての60年代は朴正煕と反共イデオロギーの時代として記憶されているが、その脈略の中で在日同胞について語られることが多いため、帰国事業についてはほとんど知られてこなかった。むしろそのこと自体が問題だと今日の報告を通して感じた。
「在日同胞の帰国当時の状況が、帰国事業の概要と家族写真、さらに当事者からの直接の語りを聞くことで理解が深まった。これらが一回の報告会の中で凝縮されて、私自身も歴史の目撃者になった感覚だった。ぜひこれからも頑張って欲しいし応援したい」
また、会場からは多くの鋭い質問も出された。
「現在、北朝鮮に残る帰国者の数を把握する方法はあるのか?」
「大村収容所や出入国管理局から北朝鮮に渡った人たちについての詳細は分かっているのか?」
会場全体が、在日の帰国事業という歴史について考えようという空気に包まれ、大変有意義な報告会となった。
今回の報告会を後援し、3年にわたって活動を支援していただいた財団法人「統一と分かち合い」のハン・イェジ担当マネージャーから
「統一を準備する基金として2015年に発足した『統一と分かち合い」は、南北統合のための教育や開発、研究に対して助成を行なっています。韓国ではほとんど知られていない帰国事業について調査、記録する活動に支援ができたことを、私たちもとても嬉しく思っています。このプロジェクトが最終的によい成果を残せるよう、応援しております。」
と激励があった。
私たちの帰国者の記憶を記憶する活動が、朝鮮半島の南北統一に必要不可欠な「北朝鮮理解」に寄与できる重要な活動となることを確信する場となった。
(文責 ホン・リナ/石丸次郎)